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イチローのメジャーでのバッティングスタイルと、2016年打撃好調の理由を分析してみる

今回はイチローメジャーリーグでのバッティングについて分析してみたいと思います。

イチローは走塁や守備でも大きな付加価値を生み出す選手ですが、今回はあくまでイチローの打撃のみに着目します。

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出典:http://baseballking.jp/ns/50224

 

非常に高い打率

まず、イチローのバッティングの特徴として、非常に高い打率が挙げられます。日本で7年連続首位打者、メジャーでも首位打者2回獲得と、この点に関して間違いなく世界トップレベルのバッターであったといえます。

下記はメジャーリーグでのイチローの打率推移(水色)と全選手(灰色)の平均値となります。

 

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Source: FanGraphs -- Ichiro Suzuki

 ご覧のとおり、2001年から2010年まで10年間で一度も3割を下回らず、平均を遥かに超えた高打率をキープしています。その後は昨年まで3割を下回るシーズンが続いていますが、昨年を除き平均は上回る結果となっています。

さて、ここからは上記のグラフを踏まえ、

イチローのバッティングスタイルとここ数年出場機会に恵まれない理由。

イチローが10数年間高打率をキープできている理由。

ここ数年の不調の理由と、当期好調の理由。

といった事を中心に、分析していきたいと思います。

 

打率以外の貢献は低めの打撃スタイル

ヒットを生む確率、つまり打率は打者のバッティングを評価する上で当然重要な要素となります。一方、実際に勝利に繋がるポイントとして、打率だけでなく、「四球を多く稼げるか=奪四球力」「二塁打本塁打等の長打を多く放てるか=長打力」が重要となってきます。

この打率以外の要素について、イチローの指標はどうなっているのでしょうか。

まず、前者の奪四球率(打席当たりの四球率)について平均との比較をしてみましょう。f:id:takoide:20160617013815p:plain

Source: FanGraphs -- Ichiro Suzuki

上記のように2002年と当期を除き、奪四球率は平均を大きく下回る結果となっています。奪四球率の低さは出塁率の低下に当然繋がります。当期の四球数は大きく増加していますが、これについては後述します。

次に後者の長打力について平均と比較してみましょう。指標としては長打率から打率を引き、純長打率を測るISOという数値を用います。

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Source: FanGraphs -- Ichiro Suzuki

奪四球率同様、長打力は平均を大きく下回る結果となっています。特にここ数年は平均の1/2以下と致命的な長打力の落ち込みが見られます。

よって、上記からイチローのバッティングスタイルとして、打率は高い一方で、奪四球力と長打を大きく犠牲にしている事が見て取れます。

この事から、

イチローはここ数年打率が下がっていた事に加え、元々の奪四球率の低さに伴う低出塁率と、致命的な長打力不足により打撃で利得が稼げず、出場機会を減らしている。

といった結論が導き出せます。

さて、次はイチローの打率が高い理由と、ここ数年の不調、当期の好調の理由について分析していきます。

 

打率を構成する要素

打率を分析する上で、打率を構成要素毎に分解する必要があります。

ここで、具体的にはバッターが打席で「三振をせずヒッティングできるか」「ヒッティングした打球がヒットになるか」といった構成要素に分解します。

ここで前者については三振率(打席当たりの三振率)、後者についてはBABIP(本塁打を除く、グラウンドに飛んだ打球がヒットになる確率)といった指標を用い、分析します。当然三振率が低い、またはBABIPが高いと打率は向上します。

ここで、非常に頭のいい方はお気づきかもしれませんが、後者の指標は本塁打を除いた数値のため、本塁打率も厳密には打率の構成要素となりますが、今回はそこまで重要ではないため省きます。

 

非常に低い三振率

まずは前者の三振率について、これまで同様メジャーの平均を比べてみましょう。

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Source: FanGraphs -- Ichiro Suzuki

 ご覧の通り、三振率はメジャー平均と比較し、1/2程度と非常に低い結果となっています。この三振率の低さが、イチローのこれまでの高打率の要因の一つとなります。メジャー平均の推移と比較し、2014年を除き、顕著な衰えは見られません。そしてここで、目を引くのが当期の異常な三振率の低さ。この当期の三振率の低さが、当期の打率復活に大きく関わっているといえます。

 

当期のイチローは異常にボールが見えている

そして、合わせて確認したいのが、当期の奪四球率です。通常、待球タイプなら三振も四球も多くなるように、三振率と奪四球率は相関の傾向にあります。そのため、通常三振率が下がると奪四球率が下がる事がほとんどです。

元々、イチローは完全な早打ちタイプで、ボール球も積極的に打ちに行くことから、三振数も四球数も非常に少ない打者です。一方、前述のように当期のイチローは三振数を減らしつつも四球数を向上させ、低い三振率の一方で、平均以上の奪四球率を示しています

下記は三振数に比較した四球数の割合(四球数/三振数)を示したグラフです。この(四球数/三振数)の割合は、ボール球の見極めに関わってくるため、選球眼を表す指標として一般的に使われます。

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Source: FanGraphs -- Ichiro Suzuki

ご覧のとおり、当期は選球眼について異常に高い数値を叩き出しています。

当期選球眼について向上した理由として、

①コンディションが良くボールの見極めができる(能力の向上)

②ボール球を無理に打ちに行かず、甘い球を打ちにいくスタイルにチェンジした(方針の変化)

といった要因が仮説として立てられます。

 

ヒッティングした打球がヒットになるかは運の要素も大きい

次に「ヒッティングした打球がヒットになるか」、つまりBABIP(本塁打を除く、グラウンドに飛んだ打球がヒットになる確率)について、見ていきたいと思います。

ここで、まずはじめに、このBABIPは非常に厄介な性質を持っています

それは「運」の要素が非常に大きい、という性質です。具体的にはこの「ヒッティングした打球がヒットになるかどうか」といった確率は、「打者の一塁までの到達速度が速い」「平均の打球速度が速い」といった打者の能力に依存する要素以外に、「たまたま打球が良いところに飛んだ」、「相手の守備が下手だった」等といった様々な要素が介在するため、中々打者の実力を正確に反映してくれません

そのため、同じ能力を維持しているバッターでも毎年、数値が大きく上下します。

とはいえ長期間で見た際にはある程度の数字に収束します。そのため、裏を返せば、これまでの推移と比較し、一年のみ異常に高いBABIPが出ている場合は「そのシーズンは運がたまたま良かった」といった事が推測されます。

 

2010年までは平均してBABIPが高く、そこから一気に低下

ここでイチローのBABIPの推移を見てみましょう。

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Source: FanGraphs -- Ichiro Suzuki

上記のように、2010年までは運により乱高下しているといえ、基本的に毎年平均を大きく超えた BABIPを叩き出しています。

このBABIPの高さについては、①左打者かつ俊足であり一塁到達速度が速い②コンタクト力の高さによるライナー性の打球が多い事が原因といえます。そしてこのBABIPの高さが三振率の低さと相まって、イチローの脅威的な高打率を生み出していました

一方、2011年からは事情が変わり、2014年と当期を除き、大きくBABIPが低下しています。このBABIPの低下がここ数年の不調の一番の原因といえるでしょう。(2014年は運良くBABIPが高い一方、三振率が非常に悪い。)

このBABIPの低下は一年だけではないため、低下要因として、運起因によるものではなく、①走力の低下②パワー低下による打球速度の低下といった根本的な要因が大きいと考えられます。

 

イチローの当期のBABIPが高いのは運?

一方、当期については、昨年から大きくBABIPの数値を上昇させています。これについて、BABIPは前年から1割以上上昇しており、現在少なからず運を味方についている事実は否めません。

その一方で、イチローの"打球”について興味深い下記の推移データがあります。

下記の青線は全打球の内ライナー性の打球の割合。赤線は全打球の内打球速度の速い打球の割合です。

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このデータからは、イチロー当期のライナー性の打球の増加と打球速度の上昇が読み取れます。ライナー性、打球速度の速い打球はヒットになりやすい打球であり、このような打球を打てているため、当期イチローのBABIP、ひいては打率が上昇している事が伺えます。

そしてこれを言い換えると、つまり運だけでなく、実力部分によりイチローのBABIPは当期上昇しているといった見方が可能となります。

そして、この結果について、三振率、選球眼等の好調指標と合わせまとめると、当期のイチローボール球を無理に打ちに行かず、甘い球を打ちにいき、鋭い打球を放つ」という野球の極めて基本のスタイルに自身をアジャストできているため、結果として良い結果を残す事ができているのではないかと想像します。

まとめ

これらの分析結果をまとめると、総じて「当期のイチローは、運を味方につけている部分があるものの、間違いなく実力部分により復調しているといえるでしょう。

現在、運に恵まれている部分が収束する事による打率低下の恐れと、致命的な長打力の低さといった二つの懸念はあるものの、今後このスタイルでいる限りは一定の活躍ができるのではないかと予想します。

これで以上になります。長文お付き合いいただきありがとうございました。

是非とも今後もイチローには頑張ってほしいですね。